やけに赤味を帯びた月が闇を照らす中、山の奥へと進む男の影があった。すべての生き物がこの男の影に脅え、じっと息を潜めているかのように、辺りは静けさに包まれていた。この山に道場を構え修業を続けるゴウケンを、その男は探し求めてきたのだ。
「かの暗殺拳を受け継ぐ者というのは貴様か」いつの間に入ってきたのか、道場を照らすロウソクの明かりの中、1人座禅を組むゴウケンの前にその男の影はあった。
「貴様の技のすべて、見せてもらおう」その言葉にこもる明らかな殺意。その言葉を聞き、ゆっくりと睨み上げたゴウケンのその目には、ある決意が秘められていた。
「外道が……」
静かに立ち上がって構え、ゴウケンは闘気を一気に解放した。
再び山に静寂が戻った時、道場の前の石畳に倒れていたのは、ゴウケンだった。
「噂に聞く暗殺拳とは、この程度のものではあるまい」その男は、息を切らすこともなく両手を組み平然とその傍らに立った。
この邪悪な気をまとった男が、いずれ自分のもとにやってくることをゴウケンは予期していた。が、その男と向き合った瞬間、その比類なき力を悟り、無敵の昇り竜・最強の波動の力を敢えて使うことなく、拳を交えたのだった。己の拳の極意をその男にさとられぬ様に……。
「貴様、あくまでもその真の力を見せぬつもりか……まあよい……ならばその技、貴様の弟子たちに見せてもらうとしよう」不敵な笑みを浮かべて、その男は言った。
「?」
「驚くことはない、貴様の気がすべてを物語っておるわ」
男の底知れぬ力。ゴウケンの誤算は、思いもよらぬ結果を招いたのだった。
「これもまた運命だというのか……」意識の薄れゆくゴウケンを残したまま、男は静かに立ち去った。