「あれからもう何年たつのか…」
その長身の男は昇ってくる朝日からあふれ出る陽光を浴びながら1人呟いた。
そのとき、自分はまだ若かった。周囲から格闘技の帝王などと呼ばれていい気になっていた。そして、あの日ヤツに、リュウに敗れるまでこの世に自分に敵など存在しないと思いこんでいた。だがリュウはそれをあっけなくこなごなに打ち砕いてくれた。
今から思えば、リュウが今までの敵と違っていたことに気がつかなかった自分の思い上がりが恥ずかしくてならない。つい今までの敵、この格闘技の帝王という称号をなんとか得て、自分がその座に代わって納まりたいという下心が丸見えの連中と、リュウを同一視してしまった私は、最初からヤツをなめてかかっていたのだ。
結果は言うまでもなく私の完敗に終わった。そして、ヤツは私を倒したのに少しも嬉しそうな表情を見せず、無言でその場を立ち去った。私の胸板にひとすじの傷を残して。だがあの後、不思議と清々しさを感じたのを今でも覚えている。そんな気になったのはその時が初めてだったので、自分の気持ちに戸惑いを覚えてしまったが…。
しかし私とて一度は世界の頂点を極めた男だ。その悔しさを決して忘れたわけではない。あの日敗れて以来、私は1人のファイターとして、初心に戻り、一から修業し直したのだ。格闘技の帝王の座を奪い返すためでなく、神が与えてくれた好敵手と、いつの日にか再び心ゆくまで闘うことのできる日のために。
そして、今回の修業で実に多くの失ったことを取り戻した。私は闘いの日々を送るうちにいつの間にか、闘いに勝利することのみ重視するあまり、自分自身に挑戦し続けることを忘れていたのである。
自分自身への挑戦は技の見直しから始めた。もしこれがリュウ以外の人間と闘うのであればそのようなことは不要であったことだろう。だがリュウに、あの昇龍拳を打ち破る技を編み出さぬ限り、永久に自分の勝利はあり得ないのだ。
私は悩んだ。いかなる技をもってすれば、あの無敵の拳を超えられる技ができるのかと。ともすれば、あきらめそうになったこともあった。だがそれを支えたのは、自分の胸に残された例の傷だった。私は、そのリュウの昇龍拳によって刻まれた古傷に時折触ってみては、屈辱と後悔の思いを新たにし、自責の念を込めた叫びを自分に向かって放った。
そしてついに1つの結論を導き出したのだ。つまり無敵の昇龍拳を超える可能性があるのは、やはり昇龍拳しかないということを。しかしまったく同じ昇龍拳ではしょせん私に勝ち目はない。その考えを頭に私は修練を繰り返した。そしてようやくタイガーアッパーカットを完成させたのである。
その技を完成させた直後、リュウが再び旅に出たことを私は風の噂で知った。しかもその前に、すでに私はヤツと再び闘う日が近いのを本能的に感じ取っていたのである。運命の好敵手リュウは必ずここにやってくる。4年の歳月を経た今、リュウも修業を積み一段と大きく変わっているだろう。もしかしたらタイガーアッパーカットもリュウの前では、いたずらに等しい技になるかもしれない。だが、たとえリュウにかすり傷ひとつ負わせられなくとも我が思いは変わらない。私の願いはただひとつ、再びリュウと拳を交えることだけ…である。それ以外にはなにもいらないし、私には必要もないのだ。