オレが駆けつけた時、すでにナッシュは虫の息の状態だった。オレはナッシュの体を抱き起こしつつ、おそらくこれが最後になるであろう彼の言葉に全身全霊を傾けた。
『ベガという男に気をつけろ…ヤツはサイコパワーを自在に…ぐふっ…』
それだけを言い残すと戦友は逝った。
ナッシュの体には今まで見たことのないような傷痕が無数に残っていた。それは火傷のように無残にただれたものであったが、傷口の中心部はまるで鋭利な刃物でえぐられたようにも見え、凶器の確定は不可能だった。
だが、オレには分かっていた。これは拳によるものであり、しかもそれには相当の憎しみを持った男から放たれたのであろうことを。これが多分ナッシュが死に臨んで言い残したベガという男のサイコパワーの威力なのだろう。オレはその傷痕を身ながらふつふつと沸き上がってくる怒りを、ベガという今は形なき存在にぶつけていた。そしてナッシュの仇を討ち、ベガを必ず吊るしてみせることを誓って戦友のなきがらを後にしたのだった。
手がかりは『ベガ』という一言だけであったが、意外に早くその男に行き着くことができた。ヤツは裏の世界ではかなりの有名人であるらしく調べれば調べるほど、その闇の世界での力の強大さが分かってきた。ヤツが統括する秘密組織は合衆国はおろか世界中に根を張り、世界をも征服しかねぬ勢いを持ちつつあったのだ。ナッシュはそれについて知りすぎてしまったために消されてしまったのである。
オレはヤツに悟られぬように密かに行動した。そして苦心の末、遂にナッシュ殺しの動かぬ証拠をつかんだのである。『これでやっと、戦友の仇が取れる!ヤツを地獄へと送り込める!』その証拠をつかんだ時はそう思った。だが、オレは甘すぎた。オレはステイツの正義を、そしてパワーをあまりにも信じすぎていたのである。
やつを吊るすはずだった裁きの槌は、瞬時にしてオレを叩くものにとって代わっていた。ベガによって抱き込まれた法廷では、黒を白に変えることなど何の造作もないことだったのである。オレは罪にこそ問われなかったものの、二重の敗北にオレの精神はそれ以上のダメージを受けていたのだった。
オレは今でも思い出す、法廷を出る時のベガの自信に満ちた顔を。あの瞬間、オレは心に決めたのだ、誰の手も借りずこの手で直接ヤツを葬ることを。ヤツの頭の中にはオレのことなどすでにないのかも知れない。だが、いつか必ずこのガイルにとどめを刺さなかったことを後悔させてやるのだ。
だがベガに近づく方法は唯ひとつしかない。それはヤツが主催する武闘大会に出て、ヤツの目にとまることだ。このオレの強さを見せつければ、ヤツはきっと出てくる!しかしその大会行きのキップを手にするにはやはりそれなりの男になる必要がある。ヤツがどうしようもなく闘いたがっているくらいの男になる必要が…。
数日後、オレは旅支度を整えると独り旅に出た。オレを縛りつけていたもの、友を、軍を、ステイツを、そして愛する妻や娘さえも捨て去って。
おそらくこの旅には得るものも失うものもないだろう。しかしもう後戻りはできないのだ。戦友の仇を求めるオレの闘いはこうして始まったのである。