かつて彼女の父は、中国でも十指に入るといわれた腕利きの麻薬捜査官であった。
拳法の使い手であった彼は、どんなに実行不可能といわれた任務でも必ず解決して帰ってきた。だが、そんな彼も非情な運命には逆らうことができなかった。ある特命を受けて海外へ飛んだ彼は、それきりぷっつりと消息を絶ってしまったのである。
幼い春麗はこの父親のことが大好きであった。家にはいない日のほうが多かったが、帰って来る度に様々な国の土産を持ち帰ってくれたり、その土地のことをおもしろおかしく聞かせてくれたりした。だから父が家にいる時は必ずどこでも一緒にくっついていた。
格闘技との出会いはもちろんこの大好きな父を通じてのことであった。
元来身軽だった彼女は父やその仲間との修業にも引けを取ることなくついていけた。皆もその素早い身のこなしには舌を巻き、『さすがは春家の娘』とほめたたえたのである。
やがて少女から女へと成長した彼女は、その肉体的な成長を過不足なく利用し、素早さにそれをプラスした技を独自にも開発していた。特にその魅力的な脚線美から繰り出せる百裂キック≠竅A身軽な体と伸びやかに発育した脚の遠心力を利用したスピニングバードキック≠ヘ、彼女の父さえも驚嘆せしめる威力を持っていた。
だが、それでも彼女はとどまることを知らず、相手の力を利用し跳ね返す強烈な投げ技虎襲倒=A太腿に気をとられた敵の顔面を踏みつける鷹爪脚=A相手の意表をつく三角蹴り≠ニ次々と変化自在に技を発展させていき、師である父とも互角に渡り合い、時には圧倒しそうなこともあるほどの冴えを見せた。
父の突然の行方不明は、彼女の明るかった性格を一転させてもおかしくはなかったが、持ち前の気の強さからか、そんな素振りは一切見せなかった。それどころか、父の捜査を公の機関には任せておけないと、自ら刑事に志願したのである。
『父の消息は、私がつきとめてみせるわ!』
刑事になった春麗は、捜査を続けながらも格闘技の修業を欠かすことはなかった。
厳しい捜査を続けるためにも強靱な肉体が必要だと考えていたし、ダイエットもかねての彼女の日課だったからである。だが滅多なことで、彼女はその腕前を披露することはなかった。なぜなら、彼女の技は余りにも強力であるがために、彼女の父がそれを禁じたからである。しかし、気の強い彼女は、相手が闘いを挑んでくるとつい手足が出てしまって、相手がのびてからハッと気づいて、またやっちゃったと思うことがしばしばあったりする。が、それと同時に、尾てい骨からうなじにかけて電気が走ったような何とも言えぬ快感が走るところが、彼女の格闘家らしいところでもある。
その後、世界的な謎の組織『シャドルー』の存在を知り、その組織が、父の行方不明の原因となった事件に深く関与していたことが分かった。そして、その黒幕と噂される『ベガ』という男が、格闘王と呼ばれるほどの、腕の立つ格闘家であることも…。
『行こう!』。春麗は、旅立つことを決意した。旅費は捜査名目の経費で落ちるだろう。各国の名高い格闘家を手当たり次第に倒していけば、いずれはベガにたどり着くはず!そして、父の行方を力づくでも聞き出してみせる!その思いの一方で、それほど強い相手を倒したとき、どんなに気持ちいいだろう…と考える春麗であった。
捜査官春麗の旅は今、始まったばかりである。