少年のように優しく甘い雰囲気を持った顔だち。肩から背に垂らした、長くしなやかなブロンド。ほっそりとしているものの弾力に富み、それでいて引き締まった無駄のない肉体。こんな、女性にも見えるような男が、いざ闘いに入ると別人のように変わるのを誰が予想し得ようか。

 その男の名はバルログ。NINJAのように素早い身のこなしと鋭い爪を持ったスペインの熱き旋風。美しいものだけをこよなく愛し、醜いものの存在を決して許してはおかない仮面の貴公子。

 彼が美≠ノ対して異常とも言える執着心を抱くに至ったのは、悲劇の一生を送った彼の母親から偏愛を注がれたことに起因している。彼女は誇り高き名家の娘であったが、没落した生家のために、金持ちだが醜い男と評判の父と結婚させられた哀れな女であった。その反動からか、彼女は美というものについて人一倍強い執着心を持つようになってしまったのである。その影響は夫婦の間に出来た最初で最後の子供、バルログにも当然及んだ。

 思えば彼が母の容貌を色濃く引き継いで生まれてきたのは不幸だったのかもしれない。なぜなら彼の母は自分の持つ考え、価値観をそのまま刷り込むがごとく幼い彼にたたき込んだからである。もちろん美に対しての執着も。

 彼の美に対する執着は、幼少のころの趣味であった狩りにおいてますますその度合いを強められた。いかに獲物が必死に逃れようとも抵抗しようとも、美しくそして強いものの前には無力なのだ。彼はいつもそういった軽い優越感を感じながら銃の引き金に指を添えるのだった。だが成長するにつれ、まったく無抵抗の獲物に失望を覚え出した。彼はもっと手応えのある獲物を欲するようになってきていたのである。

 彼はその解決を、直接抵抗する獲物を追いつめ、苦しめ、もてあそんだ後に一気に踏みつぶせる格闘技に求めた。そしてそれは、狩り以上に彼の残酷な優越感を満足させてくれたのであった。

 幼き日に東洋人から教わったNINJUTUは、驚嘆すべき軟らかさ、素早さを兼ね備えた肉体から繰り出される流麗な連続技を著しくパワーアップさせた。そのあまりの華麗さに、彼の数多く屠ってきた獲物の中には、放心したようにみとれ立ちつくした者さえいたほどである。だがそんな相手にも彼は情けをかけたことは一度もない。強きものだけが常に美しく、敗者は常に醜いのである。彼にとって醜いものには存在する価値などはない無意味なものでしかないのだ。

 そして今日も彼は己の美しさを確認し、醜いブタどもをこの大地から消し去るために、闘いを挑んできた愚か者の待つ闘技場へと向かう。けがらわしき獲物に直接触れるのを防ぐ爪、きたならしき獲物の返り血を避ける仮面をつけたとき、戦士バルログが誕生し、またもや優雅なひとときを過ごせる喜びを体に震わせるのであった。