剣豪として名を江戸の世にとどろかせている一人の武士がいた。
 男の名は野牛十兵衛。
 剣の達人と恐れられた彼であったが、「無類の女好き」という裏の顔があり、無数の武勇伝と共に多くの子孫を残していった。その中のたったひとつの血筋が、後の世において恐ろしく強大な存在となるのである……。
 ある時、武者修行の旅先で、一人の娘と激しくもはかない恋におちてしまう。
 四季が過ぎ、二人の間に男の子が生まれた。十兵衛は丈夫そうな子供であることを見届けると、名前もつけないうちに再び修行の旅に出てしまう。
 残された母親は、夫「十兵衛」から一文字とってその子に「新十郎」と名づけた。
 ……野牛という姓こそ名乗れぬ母子であったが、……
 雄々しく成長した新十郎に、母は父親「十兵衛」のことを聞かせる決心をする。
 “世にも名高き剣豪の血が自分にも流れている”
 新十郎はこのことを何よりも誇りとして生きていくようになる。
 やがて母がこの世を去り、父・十兵衛も他界したことを風の頼りに聞く。
 さすがに傷心の日々が続いたそんな折り、新十郎に突如縁談が舞い込んでくる。
 相手はお菊という娘で、二人は八人の子宝に恵まれ幸せな人生を送っていく。
 幾度もの春が訪れ、秋が過ぎ、時代は江戸から明治へと移っていった。
 新十郎69歳。すべての人に名字を持つことが許されることになる。
 父のことを誇りに生きている新十郎は、
「我が一族は、剣豪の血筋を受け継ぐ一族也」
 との意義を込めた名字を考えた。

“豪血寺”!!

 この豪血寺の文字が表すとおり、家訓の真髄は力と血筋を賛美することにあり、その血筋が弱者へ継承されることを忌み嫌った。
 新十郎の残した姓と家訓は更に強い血筋が受け継がれていくことを託したものであった。
 豪血寺三代目頭主“お志摩”が掘り当てた埋蔵金と油田の力で、豪血寺家は世界三大財閥のひとつに数えられるまでになっていた。
 この結果、財産目的の、己の欲望のためだけに頭主の座をねらうものがかなり増えていくこととなる。
 怪しげな呪法を研究する者、ひたすら体を鍛えあげる者、伝統武術を習得しようとする者などなど……
 余りにも頭主の座を狙う者が多く、業を煮やしたお志摩は一族すべてに対して通達した。
「この度、豪血寺家主催の格闘技大会を挙行することに決定した。この大会で優勝した者には、豪血寺家頭主の座をその日から五年間与えるものとする。また、その期間が終了すると同時に、再び頭主の座を賭けて格闘技大会を行うこととする。」
 大正の世が終わり、時代は昭和を迎えようとした時、血で血を洗う頭主の座獲得のための格闘技大会が始まったのである。
 そして、現代…………