黒ライム

個人データ
名前黒ライム(ブラックライム)

違う!ライムはボクだけ!ライムはこの世界でボクだけなの!

 乙女回路を持つセイバーマリオネット「ライム」。
 ライムと同じ容姿をした褐色の肌を持つセイバーマリオネット、それが通称「黒ライム」。

 黒ライムの正体はプロトタイプライム。不完全な乙女回路、不完全な心を持ち生み出されてしまった少女。
 廃棄されていれば悲劇は起きなかった、心がライムと連動していれば問題は起きなかった。

 都市国家ジャポネスから北に200キロ。ゲロゲロ地方で眠りについていた黒ライムはライムの主人である間宮小樽の接近により目覚める。
 ライム製作時に何をしたのやら、ライムと黒ライムは記憶を共有している。ライムにメインコンピュータが存在し、各ライムは単なる端末というのであればわからないでもないが、そうでないのであれば、何ゆえにわざわざ記憶を共有させているのか?

 1万を超えるプロトタイプライム、その中で黒ライムは恐らくは最後の試作品。故に完成されたライムに近い心を持つ…愛を理解する。
 黒ライムの不完全部分は他者を思いやる心に欠ける事、独占欲が強すぎる事。それが人間であれば個性で許される。だが、乙女回路を持つセイバーマリオネットにとって、それは絶対に許されない欠陥(ブラッドベリー辺りも独占欲無茶苦茶強いような気がしますけどね、私は)。

小樽はボクの!ボクと小樽の仲を邪魔するな!ボク以外の者は小樽のこと、好きになっちゃダメ!

 ライムの記憶を持つ黒ライムからすれば、小樽を好きでいる事、小樽が自分を思っていてくれる事は当たり前。愛する小樽を自分だけのものにしたいと思うのも黒ライムにしてみれば当然の事。
 相手がライムであっても、小樽を自分から奪おうとする者は許せない。ライムとの間に起きる小樽争奪戦。

「小樽はボクのものだ」
「ボクだって小樽のこと好きなんだい!」

 小樽、実に幸せ者である。まあ、そういう場合でもないんだが。記憶を共有している以上は小樽を想う心に大差は無い。違いは大好きな小樽を自分以外のみんなが好きでいてくれるのを嬉しく思うか、それを許せないと思うか…である。
 大きな差があるようで、その差はごくわずか、心の在り方が少し違うに過ぎない。それでも、小樽には自分の事しか考えてない(ように見える)黒ライムは認められない。ライムを傷つける黒ライムは許せない。
 ライムと黒ライムはほぼ同一の存在。黒ライムはいつも通り…いつも通り、小樽の愛を求めただけ。それなのに小樽に否定される。嫌いだと言われる。
 黒ライムに罪が無いとは言わない。それでも、黒ライムは間違った事をしたわけではない。自分の心に従っただけ。

 小樽が悪いとは言わないが、私には黒ライムが可哀想でならない。黒ライムの想いを理解出来たのは自身が殺そうとしたライム1人だけだったのが可哀想でならない。大好きな人に否定され、嫌われ、それに耐えられずに機能停止…死んでしまった黒ライムが。死んだ後も小樽に嫌われたままだった黒ライムが。
 ライムは自分の心の通りに行動してきた。黒ライムも同じ事をしただけ。にも関わらず乙女回路が不完全だったばかりに小樽に嫌われてしまう。こんな結末を迎えるのであれば、黒チェリー、黒ルクス、黒以下略のように愛を理解出来ない程に不完全な乙女回路であった方が良かった。
 先に言った通り、小樽は悪くない。ライムを否定し、殺そうとするような存在を認められるわけがない。
 許せないのはローレライ、家安の2人。心をもて遊び1万を超える不幸なライムを作ってしまったローレライ。そしてその不幸なライムの廃棄を許さなかった家安。
 不完全とはいえ心を持ってしまった存在を廃棄するのは良心が痛む。それは家安の優しさなどではない、おそらくは自分が汚れたくないが故の偽善的感情、ローレライに対して自身の優しさを見せつける為の所業。廃棄せずに封印する…それは心…命を持った存在に「死」すら認めなかった最低の行為。
 生まれてしまった心であれば、それを認めるのであれば自身が責任をもって自分の下で育てるべきだったのである。廃棄に近い形で辺境の地に置いていくなど「心を持った相手」に対する所業とは思えない。ローレライと家安の2人を私は認めない。

「ボクのことが嫌い……小樽はボクが嫌い……ボクは小樽に嫌われた……」

出展
小説:富士見ファンタジア文庫 SMガールズ セイバーマリオネットJ4.雪山温泉乙女伝説 /富士見書房
 著:あかほりさとる